症例 閃輝暗点(せんきあんてん)
今回ご紹介するのは、60代の小柄な女性のお話です。
もともと穏やかなお人柄で、ご自身の体にも丁寧に向き合っておられる方ですが、最近になって「視界の中にギザギザした光がチラつく」とご相談にいらっしゃいました。
これは、いわゆる「閃輝暗点(せんきあんてん)」と呼ばれる症状です。
月に何度も起こり、ときには1日に2回も現れることがあるとのこと。片頭痛は伴わないものの、視界が歪むことで強い不安感を抱いておられました。
生活の様子をお伺いすると、睡眠は4〜5時間と短く、悪夢にうなされることも多いご様子。現在もお仕事をされており、精神的なストレスも強く感じておられました。また、橋本病の診断も受けておられます。
閃輝暗点とは?
閃輝暗点とは、視界の一部がキラキラした光やギザギザした模様に覆われた後、暗くなったように感じる現象です。一見、目に異常があるように思われがちですが、実は目ではなく、脳の「視覚野」が一時的に誤作動を起こしている状態です。
この誤作動を引き起こす主な要因が、「慢性的な炎症」や「ストレスによる血流の乱れ」だと考えられています。
脳の血管はストレスにとても敏感です。とろ火のような弱い炎症が続いていると、ふとしたきっかけで血管が急に拡張し、それが視覚をつかさどる神経に刺激を与えてしまうのです。
この方の体に起きていたこと
この女性は、以前からストレスに弱く、責任感も強い性格でした。加えて橋本病という自己免疫疾患も抱えておられます。
橋本病では、体の免疫が誤って自分自身の組織を攻撃してしまうため、体内に“慢性的な炎症”がくすぶり続ける傾向があります。
つまりこの方の体では、「ストレス」「睡眠不足」「免疫の乱れ」という複数の負担が重なり、脳の血流と神経に不安定さをもたらしていたのです。
本来であれば、ストレスを和らげる漢方、脳の炎症を鎮める漢方、免疫のバランスを整える漢方など、複数の視点から体質改善を図っていくのが理想です。
しかしこの方は、以前にコレステロールを下げる薬で体調を大きく崩されたことがあるなど、非常に薬に敏感な体質。そこで今回は、脳の炎症を鎮めつつ、ストレスを緩和する漢方薬を、あえて“ごく少量”からスタートすることにしました。
そうして時間をかけて、ゆっくりと改善を目指していただくつもりでした。
しかし1か月後、再びご来店いただいた際、思いもよらないうれしいご報告をいただきました。
「飲み始めて2日後に1度だけ出たけれど、それ以降はまったく出ていないんです」
そう話される表情は晴れやかで、不安に満ちていたお顔が少しずつ和らいでいるのが印象的でした。
薬に敏感ということは、裏を返せば「わずかな刺激にも体が素直に反応してくれる」ということ。この方の“感受性の高さ”が、今回の良い結果につながったのかもしれません。
今後も焦らず、まずは体と心を落ち着けることを優先し、「免疫のバランスを整える漢方薬」も必要に応じて少しずつ試して頂けたらと思っています。
閃輝暗点は、目の異常ではなく“脳からのサイン”です。
その背景には、ストレスや慢性炎症、そして免疫のアンバランスなど、複雑で繊細な体の状態が関わっていることも少なくありません。
このお話が、同じような症状でお悩みの方の参考になれば幸いです。


