症例 起立性調整障害
13歳の女の子。
この春から地元では有名な進学校に入学され、勉強に部活にと充実した日々を送っていたそうです。しかも、クラブ活動は2つ掛け持ち。もともと何事にも一生懸命に取り組む頑張り屋さんで、色んなことに挑戦したいという気持ちが強いお子さんです。
ところが、ゴールデンウィークを過ぎた頃から朝に起きられなくなり、学校へ通えなくなってしまいました。病院では「起立性調整障害」と診断され、薬も処方されましたが、なかなか改善がみられない。そこで心配されたお母さまと一緒にご相談にみえられました。
本人の様子を見る限り、特にしんどそうな感じや沈んだ様子はなく、むしろ明るくよく話すお子さん。ただ、話している中で感じたのは、「本当は勉強も部活も頑張りたいのに、できないのが悔しい」「置いていかれるような不安がある」という気持ちの揺れでした。
一般的に、起立性調整障害は「自律神経の乱れ」が原因とされます。
もちろんそれは、一つの見方として間違ってはいません。
しかし漢方の視点では、少し違う角度からも見ていく必要があります。
特に今回のように「13歳の女の子」の場合。
キーワードは「血(けつ)」になります。
漢方では、ホルモンの働きを「血」の概念で捉える。
つまり、ホルモンは「血」から生まれ、「血」によって運ばれる。
そして、13歳という思春期に入った女の子の体には、ある大きな変化が起きます。
それは月経の始まりです。
この時期の女の子たちは月経により、これまで経験したことのない「血の不足」に突然直面します。
それは単に貧血ということではなく、体全体のエネルギーと栄養の流れが滞ってしまう、ということ。
結果として、脳にもうまく栄養が届かなくなります。
脳は、自律神経をコントロールする“司令塔”。
そこがエネルギー不足に陥れば、当然、自律神経のバランスも崩れる。
それが「起立性調整障害」という形で表れることも、決して珍しくありません。
さらに今回の女の子には、もう一つの要素がありました。
それは、“頑張りすぎる”という性格。
ただでさえ「血」が足りていない状態で、進学、部活、課題……と、毎日を精力的に走り続けていた。
いわば、ガソリンを補給しないまま、アクセルを踏み続けた状態である。
結果、完全なガス欠になってしまった。
体がエネルギーを使い果たして、動かなくなってしまったのです。
このような状態のとき、自律神経を無理に動かすような薬は、むしろ逆効果になることがあります。
体の土台が整っていない状態では、神経だけ動かそうとしても、かえって負担になるのです。
そこで私は、まずは「血」を補い、脳の働きを回復させ、そしてその両方がうまく体の中で機能するようにサポートする漢方薬を選びました。
正直、あまり飲みやすい漢方ではなかったのですが、「元気になるんだったら頑張って飲みます」と、明るく話してくれた姿が印象的でした。
お母さまには、今のこの子に必要な栄養がしっかり取れるよう、食養生についても丁寧にお話しさせていただきました。
そして1か月後。
再び来店されたときには、嬉しい報告が待っていました。
服用を始めて1週間も経たないうちに、朝起きられるようになったそうです。しかもその後、一日も休まず登校が続いているとのこと。
私は、体の中で“栄養”と“漢方”がうまく働いてくれたんだな、と心から安心しました。
その後も同じ漢方薬を1か月継続し、今は漢方もなしで、養生のみで元気に通学されています。
今回のケースのように、10代の女の子の起立性調整障害は、単なる環境の変化やストレスではなく、月経の開始によって“血”が不足し、体がついていけなくなったことが原因になっている場合があります。
そういった“からだ”の問題に対しては、“こころ”のケアだけではなく、栄養と漢方による丁寧なアプローチが何よりも大切だと私は考えています。
今回は、その代表的な例としてご紹介させていただきました。